課長さんはイジワル2
「こんな金なんていらないって思った。

ずっと手をつけずに、だけど父さんが生きた証として通帳を持ってた」


この金額がほんの一部?!


もう頭の中が混乱を通り越して思考が停止してしまいそうになる。


「だけど、奥田さんが教えてくれた。

『一度、あの世界の商売に足を踏み入れれば、二度と後には引けない。

だったら、もう進むしかなかったんだろう。

それは、正真正銘お前の親父さんが命と信用を賭けて闘って稼いだ金だ。

だから、恥じるな』って」


ところどころに、泥や血のような黒ずみが付いてるその通帳を私は震える手で持ち続ける。


「そんな金なんかより、一度でもいい。

ゆっくり父さんと一緒に暮らしたかった……。

いろいろなことを話したかったよ。

でも、俺や母さんと一緒に暮らさないことが、俺たちの命を守るための父さんの真実の愛情表現だったんだと気づくのに大分時間がかかったよ」



寂しそうに課長が笑う。





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