課長さんはイジワル2
コップに頬を寄せたまま目を開けると、今にも泣きそうな自分の顔が鏡に写っていることに気づく。


「いけない。準備、準備」


にじむ涙をぐいっと拭うと、歯ブラシを掴み、歯磨きに集中する。

「よしっ!今日もがんばろう!」


鏡に向かって気合を入れているとリビングにある電話が鳴る。



着信画面に『安田』の名前が出る。


もう、安田のヤツ、相変わらず過保護なんだから。



苦笑いして電話に出る。



「もしもし、杉原ですが……」

「おはよう。ちゃんと起きれてるね。後10分ほどでそっちのマンションに着くから」

「いいよ、迎えにとか来なくて。マスコミにまた書かれるよ」

「別に構わないけど。とにかく、ピックアップするから出掛ける準備、すませといて」

「あ!安田!」

用件だけ伝えると、安田はサッサと電話を切る。


「もうっ!相変わらず、強引で、過保護なんだから!」


文句を言いながら洗面所に向かい、腰まで伸びた髪に櫛を通す。


安田はこの5年の間に歌手としてメジャーデビューを果たし、今や押しも押されぬスターとか言うのになっていた。


NYで課長に去られて、ボロボロになっていた私の元にすぐに駆け付けてくれて、手術が無事終わるまで私の側で励ましてくれた安田。


スターとなった今でも親友としていつも私の側にいて、私を支えてくれてる。


私の親友兼保護者として私を一番甘やかしているのは安田だ。



「杉原は自分に厳し過ぎるから、俺が甘やかすことでプラマイゼロだからいいんじゃない?」


ケロリと答える安田の話術に乗せられて、今もその好意に甘えてしまってる。


……お蔭で、安田の恋人と勘違いされてマスコミに追い回されている状況は置いといて。






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