課長さんはイジワル2

無理もない。

念願の武道館。

まさかこんなに早く願いが叶うとは思わず、でも、必死になって一緒に頑張ってきた。

「ひどいよな。笑ってるし」

すねながら安田が椅子を立て直し、私の前に腰を下ろす。


「ようやくここまで来たね。安田……緊張してる?」

「別に」


震える右手をもう片方の手で押さえながら、安田が強がりを言う。


リモコンを握り、テレビのボリュームを下げるけど、その手が小刻みに震えてる。


「安田、ちょっと手、貸して」

「何?」


私は目を瞑り、テーブルの上に出された安田の両手を強く握りしめる。


「私のパワー分けてあげる。大丈夫。必ず成功するから。
このコンサートに来ているファンのみんなが安田に釘付けになる。
みんなが安田に夢中になって……」

「……杉原も?」

「えっ?」


顔を上げる私の目を安田がじっと見据える。


「結婚しよう」

「えっ?!」


驚き立ち上がる私の手を安田が強く握り返す。



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