課長さんはイジワル2
「俺、ALSだって診断結果聞いて、もう死のうと思ってた」

「そんな!」

「……ごめん。勝手だよな。
でも、このままじりじり発症するまで生きていくより、体が動く内に病気に殺されるんじゃなくて、自分の意志で死のう、そう思ってた」


そして、課長はあの頃に思いを巡らせるかのようにしばらく考え込んでいたようだけど、やがて重い口を開く。


「……でも、生きたいと思った。
愛が日本から帰って来てくれて、そして、踊れるはずのない右足でエネルギーに満ち溢れた踊りを踊ってくれるのを見て、俺も奇跡を信じたいと思ったんだ」


「課長……」


「あれから、サイトを立ち上げて世界中のALSを治したいと思う人たちに呼びかけて……。
寄付を募り、スタッフを集めて、今の財団を作った。……無我夢中だったよ」


「……そう。でも、なんで連絡、くれなかったの?」


課長は椅子に腰を下ろし、うなだれたまま唇を噛む。


「新薬を開発するまで、何年……いや、何十年、掛かるか見当もつかなかったから。
その間にも、俺は発症してしまうかもしれない。
無駄に愛に希望を持たせたくなかった」


私ははっとなって、課長の前に跪き、手を握る。


「まさか発症したの!?」


私の質問に課長が首を振る。


「新薬のお蔭だよ。
発症前であれば発症は抑制出来るみたいだし、発症間もないのであればその進行を極めて緩やかにすることができる」


「……良かった」


ほっとして課長の両手を包み込む。





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