叶う。 Chapter3
入って来たのはみやさんだった。
「失礼します。」
みやさんはそう言って私に近寄ると、慣れた手付きで私の腕を持ち上げて点滴の針がある箇所に巻かれた包帯をゆっくりと外した。
私はあまり見たくなかったので顔をそらして横を向いた。
痛いのは好きじゃないのだ。
特に注射というものが私は大嫌いだ。
顔を背けて目を閉じていると、私はふと思い出した・・・・。
まだ幼かった頃、母が私を予防接種に連れて行ったことを。
泣きながら母にしがみついて嫌がった私を、母はぎゅっと抱き締めてくれた。
私は久々に触れた母の温もりに安心して、チクリと針が刺さったけれど痛みを堪えた。
そんな私に、母は“偉かったね”と、優しい声でそう言った。
人前では母は優しかった。
あれ?
その瞬間、私は驚いて目を開いた。
なんで私は、母のそんな記憶を思い出したの?
違う、これは私の記憶じゃない。
それに気付いた瞬間、私は途端に全身が寒気に覆われた。
「大丈夫ですか?」
みやさんはいつの間にか点滴を外し終わってた様で、目を見開いて硬直している私に優しくそう声を掛けた。
「だ、大丈夫です・・・。」
その声で現実に戻った私は、慌ててそう言った。
そんな私の様子を、みやさんがじっと観察していたのが何となく分かったけれど、私はそれどころじゃなかった。