叶う。 Chapter3
「じゃあ、とりあえず此方にピアノがありますので。」
お父さんは少し素っ気無い感じでそう言うと、美術品置き場であるあの場所に向かって歩いた。
先生は無言でその後に続いた。
私は一瞬美弥と視線を合わせると、お互い声に出さないように目を合わせて笑ってしまった。
多分思っていることが同じなんだろうと思った。
私もまさかこんなに若くて今時の人が、ピアノの先生だとは信じられなかったし、お父さんも紹介してもらって初めて会ったんだろうと思った。
そしてどうやらお父さんはお気に召さなかったようなので、私はこの先生は直ぐに変わるんじゃないかと思った。
「広いお家ですね。」
先生は歩きながらのんびりとそんなことを言う。
お父さんは微かに愛想笑いを浮かべたけれど、何も喋ることすらしなかった。
そして温室の向かいの扉の前で足を止めると、鍵を開いて美術品置き場兼私のピアノ置き場の扉を開いた。
「どうぞ。」
お父さんに促されて、先生はその部屋に入った。
私と美弥もその後に続いた。
「これは、すごい!」
先生が心底ビックリしたようにそう言ったので、美術品のことかなんかだろうと思った私はちらりと先生を見ると、先生は何故か真っ直ぐにピアノに向かって歩いて行った。
「素晴らしいピアノをお持ちなんですね。僕も弾かせて頂いても宜しいですか?」