叶う。 Chapter3
先生は何故か目をキラキラと輝かせてそんな事を言った。
ピアノの価値が良く分からない私は、この家に来てから自分の部屋にあるピアノにしか触っていなかったことを思い出した。
「どうぞ、弾いてみてください。」
お父さんは相変わらず素っ気無くそう言った。
だけど先生はピアノの屋根を持ち上げて突上棒で固定すると、相変わらず柔らかい話し方でこう言った。
「あれ?これ新品ですよね?」
そう言って中を軽く覗くと、正面に回って鍵盤蓋を押し上げた。
お父さんは先生の言葉に、何故か驚いたようだ。
そして私も驚いた。
私はてっきり自分の家のピアノと同じ物だと思っていたからだ。
「アンナさん、ピアノ練習していなかったの?」
先生はそう言って私をじっと見つめた。
「いえ、あの・・・部屋にアップライトがあるので・・・。」
私がそう言うと、お父さんが口を挟んだ。
「アンナはこっちに引っ越してきたばかりでね。以前使っていたピアノと同じ物を新しく買ったんだ。」
「そうなんですね。こんなに素晴らしいピアノは中々弾けませんよ。新品なのに弾かせて頂くのは申し訳なくて出来ません。」
先生は少し困った顔でそう言った。
だけれど私はそんなこと全然気にならなかったし、お父さんはほんの少し先生に興味を持ったようだ。