叶う。 Chapter3
「ぜひ、お聞かせ願いたい。」
お父さんは先生を試すかのようにそう言って、片方の口角だけを上げて微笑んだ。
そんなお父さんに、先生は私を見るとこう言った。
「でも、アンナさん・・・良いんですか?新品なのに?」
「以前の家でも、同じ物を使っていましたのでお構いなく。」
私は笑顔を向けてそう言った。
正直、どの程度ピアノが出来るのか純粋に興味が湧いた。
「・・・では、ちょっと失礼させて頂きます。」
先生はそう言って自分の鞄からウェットティッシュを取り出すと、丁寧に両手を拭いた。
そしてピアノの椅子の高さを調整しながらまたのんびりとした声でこう言った。
「何か、聞きたい曲がありますか?」
「・・・ラ・カンパネラが私どうしても弾けなくて、弾けますか?」
それはとても難しい曲で、実際に私は完璧に弾くことが未だに出来ない。
「あー・・・リストの曲は難しいからね。」
先生はそう言って、椅子に座ると暫くピアノと見つめ合っていた。
恐らくとても集中しないと弾ける曲じゃない。
私は先生の手がよく見えるように静かに横に立った。
先生は深く息を吸い込むと、鍵盤に両手をそっと乗せた。
次の瞬間、私はあまりに驚いて思わず息を飲み込んだ。