叶う。 Chapter3
流れるような指先の動きに。
そしてその鐘の音の美しさに。
とても同じ人間業とは思えないその指の動きを必死で目で追った。
しかも恐らく先生は鍵盤をあまり見ていない。
全身が鳥肌で覆われるほど、先生の演奏は完璧だった。
音楽は好みがあるからそれが一流か二流かと言われたら、判断が出来ないけれど、それでも私から見た先生の演奏はプロのピアニストに匹敵すると思えるほどに完璧だった。
思わず呼吸をすることすら忘れて、先生が演奏を終えた瞬間に一瞬眩暈がした。
「いやぁ、ほんと素晴らしいピアノですね。」
先生は鍵盤から手を離すと、やっぱりのんびりとそんな事を言ったけれど、私は必死に呼吸をしながら思わず拍手をした。
「ただ、慣れないせいかちょっと音が硬かったですね、すみません。」
先生はそう言って、にっこりと私を見る。
「い、いえ・・・素晴らしい演奏を聴かせて頂きました。本当に・・・。」
見た目とのギャップもあるだろうけれど、まさかここまで完璧な演奏が出来る人だとは思いもしなかった。
それと同時に、なぜ前の先生がこの先生を紹介してくれたのか、私は理解した。
それはこの先生の表現力の凄まじさだ。
私とは表現力のレベルが違いすぎる。