叶う。 Chapter3
そんな私の姿にお父さんも、直ぐに先生が凄い人なんだと勘づいたんだろう。
「では私は用がありますので、これで失礼します。アンナを宜しくお願いします。」
お父さんは先生をしっかり見つめて先程とは比べ物にならないくらい丁寧に先生にそう言った。
「いえ、此方こそ宜しくお願い致します。」
先生が笑顔でお父さんにそう言うと、お父さんは軽く会釈をして部屋を出ていった。
「アンナちゃん、この前の発表会は素晴らしい演奏だったみたいだね。林原先生から聞いたよ。」
お父さんが居なくなって、きっと先生は安心したんだろう。
私を急にアンナさんからアンナちゃんに変えて、ピアノの椅子を少し調整した。
「いえ、そんな……藤崎先生からみたら、私なんか全然です。」
「いやいや、グランプリをとるのは中々出来る事じゃない。」
先生はそう言うと、私にピアノに座るように手を向けた。
「先生は、林原先生に習ってらしたんですか?」
藤崎先生の若さから考えると、多分そうなんだろうと思ったけれど私は純粋にそう聞いてみた。
「そう。僕の師匠だからね、あー、でもアンナちゃんが言ってるのは奥さんの方かな?」
私はピアノの椅子に座ると頷いた。
空気の読める美弥は、部屋に置かれた椅子を持ってきて先生が座れるように隣に並べた。