叶う。 Chapter3
先生の言葉に返す言葉が見つからなかった。
やってました、と嘘を吐けばきっと先生にはそれが嘘だとばれるだろうし、やってなかったと言えば、何故か怒られる気がしたからだ。
私は正直、ハノンというこの教本が好きではない。
指の練習だけの為にするものだと思っていたし、曲というよりもただ指を動かす訓練をするようなものだ。
音も単調でピアノを演奏しているという気分にすらなれない。
だけれど前の先生にやるように言われていたので、習っている間は1日30分程度は一応やっていた。
だけれどソナタ・アルバムに入った辺りから、私はあまりハノン教本を開いてすらいなかった。
理由はソナタ自体が難しいので、ハノンを練習する時間があまり取れなかったからだ。
「アンナちゃんの、悪いところ見つけた。」
先生は黙って俯く私にそう言って、私の手を掴むとその腕から指先までをじっくり観察した。
「アンナちゃん、まず君の指はピアノを弾きこなせる指じゃない。何でか分かる?」
「・・・分かりません。」
「指にちゃんと必要な筋肉がついていない。だからどうしても音が軽くなる。」
「・・・・。」
「音が軽くなれば、音の強弱の表現が弱くなる。それはただ楽譜通りに弾いてるのと同じことだよ。」
「・・・・はい。」
先生の言うとおりなので、私は返す言葉も見当たらない。