叶う。 Chapter3
「じゃあ、どうすれば指に必要な筋肉がつくか。」
そう言って先生はハノン教本を私に差し出した。
「どんなに時間がなくても、毎日最低これだけでもいいから弾くように。」
「・・・・はい。」
「どんなに楽譜どおりに曲が弾けようが、賞がとれようが、必要な力がない指じゃ、音楽・・・特にピアノは専攻出来ないよ。する気がないなら構わないけど。」
私は将来のことは全く考えてもいなかったけれど、先生はなぜか私がピアノを専攻する気でいるような雰囲気で話をしている。
それは何故だろうかと思ったけれど、きっとママが望んだからお父さんが先生にそう言ったのかもしれないと思った。
「はい、分かりました。」
「ハノンは大学に行っても使うし、僕も毎日どんなに時間がなくてもこれだけは欠かさないんだ。」
先生はそう言ってにっこりと笑った。
だから私も曖昧に微笑んでおいた。
「まぁ、退屈だけどね。じゃあ、暫くは曲は簡単なのにして指の訓練をやって行こう。」
「はい。」
「訓練された指と、されてない指じゃ、簡単な曲でも音も全然違うんだ。」
先生はそう言うと、早速レッスンを始めた。
奏先生のレッスンはとても丁寧だったし、分かりやすかった。
最初はきついことを言われたけれど、レッスンが終わる頃には、私は奏先生がとても良い先生だと私は感じていた。