叶う。 Chapter3
奏先生のレッスンは2時間。
一時間はひたすら指の訓練だけ、そしてもう一時間は今までやってきたソナチネなどの曲をもう一度やり直すだけだった。
ハノンを一時間弾くのは、正直指が痛くなる。
だけれど先生はそれは筋力の問題だと言った。
腕と指に必要な筋力があれば、そんなに負荷を掛けることなく弾けるようになると、そう言ってた。
だから私はどんなに退屈だろうが、先生に言われたとおりにしばらく頑張ってみようと思った。
それに多分先生は、私の指が仕上がるまでは今まで弾いてきたソナタレベルの曲を弾かせてくれないだろう。
先生の弾いたラ・カンパネラを聴いた時から、明らかなレベルの違いを見せ付けられたのだから、それは仕方ない。
だけれど自分もあれくらい、人を魅了出来るくらいにピアノが上手くなりたいと心から思ったので、私は何だかんだ言ってもピアノが好きなんだと思った。
「よし、じゃあ今日はこのくらいにしておこう。」
2時間のレッスンを終えて、柔らかい口調で先生がそう言ったので私は椅子から立ち上がるとお礼を言って先生を玄関まで見送った。
「ありがとうございました。」
「じゃあ、ハノンは欠かさずに。」
「はい。」
玄関先でそう言った私に、先生は相変わらず可愛らしい笑顔で頷いて家政婦さんの一人と共に玄関を出て行った。
なんだかとても良い先生と廻り合えた気がして、私はまたピアノが楽しくなった。