叶う。 Chapter3
“あ、ごめん。ダンス始まるからまた後で掛けるよ。”
騒がしい和也の背後からは、色んな音が聴こえてくる。
「了解、ダンス頑張ってね。」
私はそう言って、静かに通話を切った。
そして携帯を机に置くと、部屋に置かれたアップライトピアノの鍵盤蓋を押し上げた。
それと同時に、美弥が部屋に入ってくる。
いつでも私を見守る美弥は、何故か電話中はあまり部屋に入って来ない。
だけれど今はそんな私を、ソファに腰掛けながら優しい眼差しで見守っている。
私はハノン教本を広げて、食事の時間まで練習を続けた。
もう一つ、決めたこと。
それは和也のこと。
あの日から、和也は毎日のようにお見舞いにやって来た。
お父さんはそんな和也に呆れ気味だったけれど、それでも何だかんだと和也のことがお気に入りな様子だった。
そんな日が、何日か続いた時。
ある日、連絡もなく突然和也が来なかった日があった。
理由は風邪でダウンしていたのだと、後で聞かされたけれど、家に来ない和也を私はとっても心配した。
事故にでもあったんじゃないか、とか、家で何かあったんじゃないか、とか、悪い事がいっぱい頭に浮かんでは消えて、私はとても情緒不安定になった。