叶う。 Chapter3




結局、私が行きたい高校を決めたのは夏休みがとっくに過ぎて2学期が始まった中頃だった。

お父さんはいざとなったら、大学付属の高校にお金を積んででも私を押し込む気でいたみたいだった。

だけれど私はそれだけは絶対にしたくなかったし、する気もなかった。

だから自分で高校を選び、純粋にピアノだけを評価される学校を探した。
それは私の学力では少し厳しいくらいの偏差値の学校だったけれど、私はあえてその学校を選んだ。

和也も頑張っているのだから、自分も頑張るという単純な選択だったけれど、それは私にとっては正しい選択だったのかもしれない。

自分もやらなきゃいけない事で、和也に対しての執着が少し弱まったからだ。
それから私は勉強にピアノだけの日々を過ごした。

だけれどたまには今日みたいに、和也と一緒に過ごす細やかな時間もお互いに必要だった。


「先生がもういらっしゃってます。」


美弥はそう言って車を玄関前に停めると、慌てて後部座席の扉を開いた。
私も慌てて車を降りると重たい玄関を開き、制服のまま急いでピアノの部屋まで走った。

部屋の前で呼吸を整えてから、私は静かにその扉を開いた。

奏先生は多分、少し前に着いたばかりみたいだった。


「やぁ、アンナちゃん。」


「すみません、遅くなりました。」


笑顔で挨拶をしてくれた先生に、私は丁寧に謝罪をしてから頭を下げた。




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