叶う。 Chapter3
「いや、僕も今来たばかりだよ。じゃあ、早速だけど始めようか。」
奏先生はそう言って、椅子に手を向けた。
私はピアノの前に置かれた椅子に浅く腰掛けた。
奏先生は相変わらず、指の訓練を一時間続けさせる。
だけれど最近はそれに加えて、ソナタ・アルバム程度の曲を弾かせてくれるようになった。
それは私の受験対策の為で、私が受けたい学校は実技も入試に含まれる。
そしてそれを1時間続けた後に、ソルフェージュを30分程度するようになった。
ソルフェージュ専門の先生も、奏先生の紹介で日曜日の午前中にやって来るけれど、それでも万全の状態で受験に挑みたい私には、奏先生の追加の30分はとてもあり難かった。
いつも通りにレッスンを終えると、奏先生は自分の鞄に荷物を纏め始めた。
私もピアノを丁寧に片付けると、ふと奏先生はどこの高校に行っていたのだろうかと気になった。
これだけの表現力と技術を、一体何処で学んだのだろう?
それはきっと私が目指すよりも更に上の学校なんだろうけれど、純粋に気になった。
「奏先生って、どこの高校に行ってたんですか?」
楽譜を丁寧に折り畳む先生は、私の質問に顔を上げた。
そしていつもみたいににっこりと笑って、こう言った。