叶う。 Chapter3
奏先生はそんな私を慰めるかのように、こう付け加えた。
「だけどアンナちゃんには、世界を見てきて欲しいと思うよ。君には才能がある。だから今は高校に受かって、3年間で準備をすれば良いんじゃないかな?勿論、音楽大学は海外に沢山あるんだから、3年間しっかり頑張れば、海外の大学を受ける準備は出来るはずだよ。」
奏先生の言葉に、私は小さく頷いた。
「・・・奏先生は、どうして海外に居たのに向こうの大学に行かなかったのですか?」
私は純粋に疑問に思った。
だけれどそれは聞いてはいけないことだったのだと気付いたのは、奏先生が悲しそうにこう言ったからだった。
「僕は自分の実力を過信してたんだよ。世界は広いことを僕は分かってなかった・・・・だから僕は一度挫折したんだ。」
私が首を傾げると、奏先生はまた困ったように笑ってこう言った。
「簡単に言えば、上には上が居る。僕はそれに耐えられなかった。天才と呼ばれる人達の足元にも及ばなかったってわけ。」
私は奏先生に、すごく失礼なことを聞いてしまったんだと思って反省した。
だけれど奏先生ほどのレベルの人が敗北宣言をするほど、世界にはもっともっと凄い人が居るのだと思うと、この目でそれを見てみたいと、この耳でそれを聴いてみたいと、切実に思った。