叶う。 Chapter3
その後、美弥は自分も支度をすると言って部屋を出て行った。
私は美弥の用意してくれた物に忘れ物がないかを確認したけれど、美弥はいつでも完璧なのできっと大丈夫だろうと思った。
だけれど何かをしていないと、落ち着かない。
私はゆっくりとピアノに向かった。
椅子に浅く腰掛けると鍵盤蓋を押し上げて、屋根に手を伸ばし適当に掴んだ楽譜を広げた。
それはショパンの幻想即興曲の楽譜だった。
この曲はママが大好きだった曲。
私は暫くピアノと向かい合い意識を集中させた。
ピアノに向かい合っていると、何も考えなくて済む。
夢中になってそれを弾き続けた。
余計なことを全て難しい音符で埋め尽くしてしまえば、何も考えなくて済む。
ピアノの音色はとても美しく心地よく響いている。
それは私の心を落ち着け、穏やかな気持ちにさせてくれる。
どうか全ての人々が、穏やかな毎日を過ごせますように。
そんな祈りを込めて、私は演奏を続けた。
例え明日私がこの世界から消えてしまっても、この音色は永遠に続いていく。
どこかで知らない人が、その音色を奏でるのだ。
それはきっととても美しく、人々を安らかな気分にさせてくれるんだろう。
最後の章節を奏でると、私は鍵盤からそっと手を離した。