叶う。 Chapter3
「・・・・綺麗な曲だな。」
私はその声に振り返った。
凄く集中していたので、お父さんが部屋に入って来たことに気付いてもいなかった。
「これは、ママが一番好きだった曲なんですよ。」
私はそう言って笑顔でお父さんを見つめた。
お父さんはそんな私に少しだけ口角を上げたけれど、直ぐにいつもの感情のない表情に戻った。
「荷物は最低限でいい。何か足りなければ向こうで買い足せば良い。もう準備は出来たのか?」
「はい。もう大丈夫です。」
「出発まで後2時間くらいあるが・・・彼氏と会って来るか?」
私は一瞬迷ったけれど、直ぐに首を振った。
会ってしまったら、きっと私は逃げたくなる。
だけれどお父さんはそれを分かってる。
お父さんはきっと、私が逃げることを望んでいるのだ。
だけれど私が逃げたら、困るのはお父さんだ。
お父さんを双子の父親がどうするかは分からないけれど、ただじゃ済まされないんだろうことは馬鹿な私でも分かる。
最悪はお父さんは殺されてしまうかもしれない。
そんなこと、私には耐えられない。
もうこれ以上迷惑は掛けたくなかった。
黙って首を振った私に、お父さんは静かにこう言った。