叶う。 Chapter3




少しで良いからイギリスの街をお父さんと歩いてみたかったけれど、それはどうやら叶わないらしい。

私はその言葉に黙って頷くと、近くに居た美弥の場所に移動して髪を綺麗に編みこんでもらい、自分は丁寧に化粧を直した。

美弥はママみたいに手先がとても器用なのだ。
だから私は時間が無い時やデートの時など、いつも美弥に髪を綺麗に整えて貰っていた。

何とか寝痕が分からないくらいまで化粧を直し終えると、丁度飛行機が着陸態勢に入るというアナウンスが流れた。


私はお父さんの隣に戻ると、ゆっくりと深呼吸を繰返した。
あの双子の父親と、もう一度対峙しなければならないのだ。


「いくつか注意しとく。」


お父さんの言葉にお父さんの顔を見上げた。

お父さんは冷めた横目でちらりと私を一瞬だけ見たけれど、直ぐに前を向いて視線をそらした。


「何を言われても表情に出すな。感情を捨てろ。例えリサ達がその場に居てもだ。」


「・・・はい。」


「難しいかもしれないが、絶対に怯えるな。それと、ボスが何を言っても歯向かうなよ。むしろ何も喋るな。聞かれたら答える、それだけでいい。」


「・・・・はい・・・。」


私がそう返事をした瞬間、飛行機は耳障りな音を立てて無事に地面に着陸したようだった。

私はお父さんに言われたことを頭に叩き込むと、シオンのあの感情のない瞳をしっかりと記憶の中から呼び覚ました。



< 188 / 240 >

この作品をシェア

pagetop