叶う。 Chapter3




道路に隣接しているその場所には、1台のリムジンが停まっている。

初めて見るイギリスの街並みをじっくりと見せてくれるほど、やっぱり双子の父親は甘くは無かった。

私達が近づくと、中から厳つい男が降りて来てお父さんに向かって頭を軽く下げた。


そしてお父さんは軽く手を上げたけれど、何も言わずに慣れた様子で男が開けたドアからその車に乗り込んだ。

リムジンという車に乗るのが初めてだった私は、勝手な想像で中はテーブルがあってとても広い作りになっているんだろう、なんて頭に思い描いていたけれど、実際に入ってみるとそれは全く想像とは違っていた。


確かにテーブルにゆったりとした座席はあるけれど、それはお父さんと私が座った席だけで、後ろには私達が居る場所よりも少し狭いくらいの座席があるだけだった。

そこには美弥と、お父さんがいつも良く連れている付き人の一人が乗り込んだ。

車に乗らなかった付き人は、車が出るまでその場所に立って周りを観察している。

車を降りた男がまた助手席に戻ると、車はゆっくりと動き出した。


私はお父さんをちらりと見たけれど、お父さんは何も言わずに前を見ているだけだった。

その表情は一切の感情が見えない。
私は窓から見えるイギリスの街並みを眺めながら、お父さんのように一言も喋らずに感情を殺すことだけに集中し始めた。




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