叶う。 Chapter3
「そもそも、逃げる気はないけど。」
私が静かにそう言うと、美弥は眉を顰めたままこう言った。
「私は隙があればお嬢様を連れて逃げる気でおりました。でも、ここまで厳重な場所は初めてです。ここに来る途中も確認しましたが完全に退路が見つかりませんでした。」
美弥の言葉に、私はとても驚いた。
まさか美弥がそんな事を考えているなんて、予想もしていなかった。
私は慌ててこう言った。
「美弥・・・絶対にそんなことしないで。」
私はしっかりと美弥を見つめる。
「・・・・。」
「お願い・・・・。」
「・・・・・・。」
「美弥・・・これは私からの命令なの。」
答えない美弥に、私は初めてその言葉を使った。
美弥は何だか泣きそうな雰囲気だったけれど、しっかりと私の瞳を見つめてこう言った。
「・・・・分かりました。」
「・・・美弥、私はあなたに日記を託してある。どうしても、それだけは開けて欲しい。だからあなたは何もしないで。例え私が殺されてもよ。」
「・・・・・はい。」
俯く美弥に私はそう言って、美弥の手に自分の手を重ねた。
「それに、お父さんの傍に居てあげて。美弥さえ良ければだけど。」
相変わらず冷たい美弥の手は、少しだけ震えていたけれど私はそれに気付かない振りをした。
私がここで冷静になっていなければ、美弥はきっと私を連れて逃げ出すことを考えるだろう。
そうなれば2人揃って命を落とすことになる。
それだけは絶対にしたくはない。