叶う。 Chapter3
その部屋に、双子の父親を先頭にゆっくりと足を踏み入れる。
どうしてこの家はこんなに無駄に広いのかと、私は少しだけ呆れてしまいそうな気分になった。
学校の体育館くらいあるんじゃないか、と思えるくらいのその部屋は円形の形をしていた。
中央には少しだけ段差があり、その上には見たことすら無いような大きなグランドピアノを中心に、様々な楽器が所狭しと並んでいる。
人数さえ集まれば直ぐにでもその場でオーケストラが開演出来るだろうと思った。
だけれど私はそれを顔に出さないように気を引き締めた。
付き人達が、直ぐに壁側に置かれた椅子を並べ始めた。
双子の父親は、慣れた手付きでピアノのカバーを外すと屋根を持ち上げて突上棒で固定をする。
マホガニー色の光沢のあるそのピアノは、見たことの無いような輝きを帯びている。
そしてピアノの鍵盤蓋に小さな鍵を差し込むと、鍵を開いてゆっくりとその鍵盤蓋を持ち上げた。
私はその鍵盤に視線を向けた。
きっと長い間、使い込まれて来たのがその鍵盤の色から良く分かった。
「さぁ、どうぞ、ミスアンナ。」
双子の父親は冷笑を浮かべながら、ピアノの前に置かれた椅子をそっと引いて私を見つめた。
私はその蔑んだ冷たい氷のような視線に圧倒されないように、真っ直ぐにピアノの前に向かった。