叶う。 Chapter3
私は直ぐにサンダルのストラップを外して、それを脱いで丁寧に椅子の横に並べると、素足のまま椅子の高さを調整した。
そしてまた椅子に浅く腰掛けると、ピアノの鍵盤を見つめたままこう言った。
「何を演奏させて頂きましょう?」
ピアノを見つめていると、不思議と緊張感が薄らいだ。
部屋中の空気は張りつめたままだったけれど、私は何故か心が落ち着いていた。
「……レクイエムが弾けるかね?」
双子の父親は、身も氷るような冷たい声音でそう囁くように呟いた。
「大変申し訳ありません、弾き慣れた曲ではありませんが、弾かせて頂きます。」
それはモーツァルトが作曲した曲だ。
少しだけ悲しい旋律だけれど、私はしっかりとその楽譜を頭に思い浮かべた。
レクイエム……
日本語では、鎮魂歌とも呼ばれるその言葉の意味を私は何故か考えた。
魂を鎮める歌。
突然、私はその意味を理解してしまった。
そして、何故自分がこの場所へと連れて来られたのかを私はやっと理解することが出来た。
だけれど今は、ピアノに全神経を集中させなければならない。
じっと鍵盤と見つめあっていた私は、深く息を吸い込むと、鍵盤の上に両手をかざした。