叶う。 Chapter3
ゆっくりと鍵盤に指を乗せて、その優しく悲しい旋律を奏でる。
途端に耳に流れ込んで来たのは、聴いたこともないような美しいピアノの音色だった。
この場所が、そうさせるのか。
ピアノの音色を奏でながら、私は必死に涙を堪えた。
美し過ぎるその音色に何故か胸に悲しみが込み上げる。
私は何故か、この曲はこの場所にとても相応しいような気がした。
どうか安らかに……。
私はそう願いながら、鍵盤に指を走らせる。
そんな私のピアノは、人の魂を鎮めることが出来るのだろうか。
鍵盤から伝わる微かな振動が、指先を震わせる。
それは私の涙腺を刺激する。
呼吸すらも忘れるほどに、深く響き渡るその音色は私の心に刻まれていくように何故か心の中がズキズキと痛む。
最後の章節を奏でると、私はペダルからそっと足を離した。
同時に鍵盤から手を離して微かに残る残響が部屋中に響いているのを、自分の耳で感じ取った。
胸に手を当てて、必死に深呼吸をする。
そんな私に向けて、たった一人だけ拍手をしている人物が立ち上がったのを気配で感じた。
その人は手を叩きながら、未だにピアノの前で呼吸を整えている私の背後にやって来ると、私の肩にそっと手を置いた。