叶う。 Chapter3
もし、これが大人だったら私は何もせずにただ時間の流れに身を委ねて、平凡な毎日を送っていただろう。
それがどんなに幸せで、楽な生き方かなんて子供の私にも理解は出来る。
だけれどそれをする事は、自分自身の意思を殺す事と同じなのだ。
ここで何不自由なく、お父さんに育ててもらって、普通に大人になって、適当に恋愛をして、結婚して、子供が産まれて、歳を重ねていく事が、どんなに幸せか。
馬鹿な私でもそれくらい分かってる。
だけれどそれじゃあ、もう2度と家族に会う事は出来ない。
幸せの基準は人それぞれで、私の幸せは常に家族と共にある。
幼い私を大事に大事に、育ててくれた家族と過ごした8年間はどんなものにも代えがたいほどの幸せな時間だった。
アンナの目を通して、それを見ていた私はそれがどんなに幸せな事だったのか分かってた。
分かっていたけれど、憎しみがそれを上回っていた。
それが跡形も無く消えてしまった今は、ただ寂しさと後悔と懺悔の気持ちしか残っていないけれど。
アンナは気付いていなかったのかもしれない。
平凡でいつもと同じ日常を過ごしたいと願っていたアンナにとっては、それが幸せだとは気付いていなかったかもしれない。
大切なものほど、失ってから気付くのだ。
だから人は後悔する。
私は2度と後悔なんかしたくない。