叶う。 Chapter3
演奏を終えると、私は静かにピアノの蓋を閉めて立ち上がった。
またお父さんに、お願いをしなくちゃいけない事が、ほんの少しだけ憂鬱になった。
ピアノの音はとても綺麗なんだけれど、きっとこのピアノは長いこと放置されていたに違いない。
微かに音のずれを感じ取った私は、きっと調律されていないんだろうことに気がついてしまった。
夕食は8時だと言っていたから、その時間には帰宅するのだろうか?
私はそんな事を考えながら、ソファに膝を抱えて座った。
久々にピアノに触れたからか、何だか気分がとても落ち着いた。
私はそのまま隣に置かれたバッグを開くと、お父さんから貰った携帯と、自分の今まで使っていた携帯を取り出した。
考えてみたら、今までの携帯はママ名義になっていたはずだということに私はふと気がついた。
ということは、もう使えない?
そう思った瞬間、私は非常に焦り始めた。
だって、もしもこの携帯が使えないなら、和也や凛と連絡を取る事が出来なくなる。
新しく貰った携帯を使えば連絡する事は可能だけれど、家族以外との会話だって録音されているだろうし、聞かれてしまうだろう。
それだけは絶対に嫌だった。
家族との会話は聞かれるのは仕方ないとしても、全く関係の無い人との会話まで聞かれるのは癪に障る。