叶う。 Chapter3
「……あ……すまない。」
唖然とお父さんを見つめる私に、お父さんはそう言って手にした銃を背中に隠した。
「すまないが、俺に近付く時は必ず声を掛けてくれ。」
お父さんはばつが悪そうな顔をして、銃を隠した手と逆の手で、固まる私の頭を優しく撫でた。
「何で服を掴んだ?」
お父さんはそう言って、未だに声すら出せない私に優しく声を掛けた。
「……あの……」
私はそう言い掛けたけれど、あまりの恐怖で言葉が出てこない。
「どうした?」
「あの……部屋に、い、いきなり入って来る事、があるんでしょうか?」
私はこの気まずい空気を何とか誤魔化そうと、必死に言葉を繋いだ。
さっきは本当に殺されると思ったけれど、今目の前に居るお父さんは至って普通だし、多分普段より優しく気遣う雰囲気を醸し出している。
「あー、いや。入って悪かったな。だが昨日の今日で万が一お前に何かあったらと思ってな。」
そう言って、また私の髪を優しく撫でる。
「安心しろ、普段は入らない。お前は俺が思ってた以上に逞しいから、安心したよ。」
お父さんはそう言って、静かにしゃがむと私に見えない様にどこかに銃を隠した。
あまりに自然過ぎるその動きに、私はさっき起きた出来事は幻なんだと思うことにした。
深く考えても、仕方ない。
お父さんは普段から"そういう″生活をしているのだ。
それは私には関係ないし、知ってはいけないことだとそう考える事で気持ちを落ち着けた。