叶う。 Chapter3
どうやらこの人達は、本当に無駄な会話などは一切してくれる気配がない。
多分、話し掛ければ答えてくれるのかもしれないけれど、それでもし気分を害されるような事態になっても困る。
お願いすれば何でもしてくれるみたいだけれど、話して下さいとお願いする勇気は残念ながら持ち合わせていない。
薄いスモークの張られた窓から外を覗くと、昨日とは違って色々な景色が見える。
「それでは出発致します。」
家政婦さんがそう言ってゆっくりとゆるやかな下り坂を降り始めた。
昨日ははっきりとは分からなかったけれど、この家は本当に山の天辺にあることが今日は良く分かった。
門までの道は綺麗に舗装されているけれど、その両脇にはずっと沢山の木々が生い茂っていて多分外から見ても家の姿すら見えないんだろう。
ゆるやかな坂道を下ると、やがて昨日見た高い門が視界に映った。
距離自体は大したことはなさそうだけれど、帰り道はずっと上り坂なことに少しだけ残念な気持ちになった。
運動不足で体力の無い私は、これから学校が始まれば毎日この坂を上り下りしなきゃならないのだ。
私は家政婦さんにばれないように、小さく溜息を吐いた。
家政婦さんはそんな私の様子が気にならないようで、リモコンで門を開くと相変わらずの安全運転で車を走らせた。