叶う。 Chapter3
色
今日の和也は何だかいつもよりも大人っぽい気がした。
それはダンスの時のカジュアルな格好を見慣れているせいもあるのかもしれない。
いつもより大人っぽい服装は、何だか大学生くらいに見えて私は余計に落ち着かなかった。
両手をダウンのポケットに入れて、じっと私を見つめるその視線はやっぱりいつもと変わらない。
真っ直ぐに私を見つめる瞳は、全てを見透かされている気がして、私は思わず自分から瞳をそらした。
「お、遅れてごめんね。」
スカートの裾が気になる振りをして視線をそらしたので、そう言ってまた顔を上げてその漆黒の瞳をちらりと見た。
そんな私に和也は呆れたように溜息を吐くと、急に私の手を取り歩き始めた。
無言で歩く和也に手を引かれながら、私は和也が怒っているのだという事を理解した。
一体どこへ行くつもりなのか、怖くて聞く事すら出来なかったけれど、その場所は直ぐ近くだった。
学校からの帰り道にある喫茶店。
一度も入った事はないけれど、和也はそこの前で歩くのを止めた。
「・・・とりあえず、そんな薄着じゃ寒いでしょ?」
確かに私はウールのコートを着て来たけれど、車を降りてからずっと寒くて仕方なかった。
和也はそう言ってちらりと私に視線を向けると、喫茶店のドアを開いた。
カランカランと、鳴るベルの音が何だか少し寂し気なのは、私の気分が酷く悲しい気分だからなのかもしれない。