叶う。 Chapter3
永島先生は胸ポケットからボールペンを取り出すと、私の目の前にそれを持ってきた。
「アンナ、このボールペンが見えるね?今からこれを動かすから、目で追いかけてみてくれるかい?」
私は微かに頷くと、先生はそのボールペンを上下左右にゆっくりと移動させた。
私はそれを目で追った。
「大丈夫そうだね、ボールペンは何本だった?」
「・・・一本?」
「そうだよ、うん。少しは落ち着いたかい?」
「あ・・・の、私・・・どうしたんですか?」
「君は倒れたんだよ。なぜ倒れたか自分で分かるかい?」
「・・・分かりません・・ただ・・・思い出したの。」
「・・・何を思い出したのか、言えるかい?」
「忘れてた・・・記憶です・・・」
「それはどんな記憶だったか、話せる?」
「・・・・。」
「大体で構わないよ、怖かったとか、辛かったとか。」
「・・・幸せな・・・でも悲しい・・・記憶です。」
私がそう言うと、先生は少しだけ驚いた顔をしたけれど、直ぐにいつもと同じ柔らかい表情で私の瞳をじっと見た。
「アンナ、君は色々な事があって・・・多分今はすごく不安定になっているんだよ。だから、無理せずにしばらくは安静にしていないとダメだよ。」
「・・・・はい。」