散歩唱歌
「駄目だって言われてるだろ!」

私は始めて大声で怒鳴った。

そして、また後悔して脅えた。

殴らないで、殴らないで。

肩をポンと叩かれた。

私が大声で叫んだにもかかわらず、さっきより嬉しそうな笑顔。

「なんだ、気持ちのいい声してんじゃん」

私にはこの行動がまったく理解できていなかった。

父親のように大声を出したのに。

彼女は怖くないのだろうか。

「しゃーねーな、あたしのお気に入りの場所、つれてってやるよ」

そういうと、車椅子の反対側を向けられた。

「病院の中、ならいいんだろ、押してくれ」

私は微かにに震える指を意識で止め、車椅子の取っ手を取った。

不思議と、彼女を押せば何かが見つかるかのような期待が胸にある。

病室に向かうのかと思い、エレベーターの方へ行くと。

「違う違う、階段だよ」

この病院は珍しく階段にも車椅子用の坂が付いていた。

力いっぱい彼女を押していく。

疲れても手を離すわけにはいかず、貧弱な私にはつらいことだった。

そして。

「ついた!」
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