散歩唱歌
次の日、私はいつもの木々の下で鉛筆を走らせていた。

海から流れてくる潮風が木々を揺らし、極上の気分にさせてくれる。

けれど、その絵にはまったく身が入らず、頭を過ぎるのは屋上からの海の景色。

それなら屋上に行けばいい、見たままの通りに鉛筆を走らせればいいではないか。

けれど、その時の私は、そんなことは抜け駆けのような気がしてならなかった。

あそこは彼女の特別な場所なのだから。

そんなことを考えていると、ポンっと背中を押される。

多少の恐怖と多少の期待。

「よぉっ!海に行く気になった?」

私は少し考えた、あの海を間近で見たいという考えが頭を過ぎったのだ。

その考えは、掟を破るという、私が閉じこもっていた殻を内側からノックを始めた合図で
もある。

「ま、まだ駄目!」

プイッと顔を背けた。
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