ぎゅっと抱き締めて、そっとキスをして
「竹山、この子はダメだよ」

声が近くで聞こえて、竹山さんも私も、肩がビクリと震える。
いつからそこにいたのか、稔兄ちゃんが立っていた。

この人は本当に、ヒーローじゃないの?
いつだって、こんな風に私を助けてくれるのに。
違う意味で泣けてくる。



「や、先輩、これは……」

飛び散った鞄の中身を拾って、近づいてくる。
すべてを納めて、私に渡してくれるのかと手を差し伸べて。


「この子はね、ダメなの」

私の手を掴んで、引き寄せた。
竹山さんの手は、稔兄ちゃんに動揺したのか、驚くほどあっさりと離れていくものだから、私は稔兄ちゃんの胸に顔を埋める形になった。
ポンポンと頭を撫でてくる大きくて暖かい掌が、安心感を与えてくれる。


あぁ、やっぱり私、怖かったのか、と改めて自覚した。

「いや、でも、先輩!俺……」

顔は見えないけど、声から察するに竹山さんのプライドはもう崩れさってるんだろう。
いまさっきまでつけてた“格好”は、見る影もなくなっていた。

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