ぎゅっと抱き締めて、そっとキスをして
「稔兄ちゃん、怒ってるの?」
「どうかな」

どうかな、と言いながら、掴む腕に力が加わる。

「私が自立できてないから?」
「さあ?」

さあ、と言いながら、緩むことのない歩調。

「……どこに、行くの」
「……どこへでも」




家は、さっき通りすぎた。






たどり着いたのは、小さな公園だった。
近くの自販機でホットドリンクを買って二人でベンチに並んで座る。
手のひらの中の缶コーヒーが暖かい。


「兄役としては、心配」

しばらくの無言の後、稔兄ちゃんが、言った。
口を開けばこの人は“兄役”という。
その言葉に、また見えない壁を感じた。


「稔兄ちゃんには、関係ないじゃない」

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