ぎゅっと抱き締めて、そっとキスをして
優しくて、鈍感な男だと思ってた人は、とってもずるい人だった。
何年も両想いだったのに、離れていたわけでもないのに、何年越しで、ようやく重なるってどういうこと?



もう、もう……。

グッと近づいて、その胸に顔を埋める。



「早く、頂戴」

つんつん、て持ってる鞄をつついてくる。
きっと知ってるんだ、この人は。
毎年、貴方のためのチョコを作って、持っていっては、思い止まって持ち帰って自分で食べてしまっていたことも。

すっごく悔しくなっちゃう。
鈍感だったのは私の方って訳?

そっと離れて、鞄を漁れば、あっさり見つかるそれ。
会社で配ったものとは違うラッピング。
シックで、シンプル。
掴んだその手で、涙を拭って、そのまま、その胸に押し付けた。



「あのときのチョコとは、比べ物にならないくらい美味しいんだから」

さっきぶちまけたせいで、きっと見るも無惨なことになってるとは思う。
けど、子供の頃と同じように、不細工なチョコでも、あのときから重ねた年月の分、格段にお菓子作りも上手くなったんだよ。

あなたへの想いと一緒に。
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