ぎゅっと抱き締めて、そっとキスをして
「い、行ってきます」
二人揃って扉を出たところで、今度は稔くんのお母さんが出掛けるところにでくわした。
同じ階の並びに住んでいる稔くん。
おばさんも気づいたみたいで、鍵をかけて、すごい勢いでやって来る。
すぐに目の前にやって来て、私の手をぎゅっと握って「花梨ちゃん!稔のこと、よろしくねぇ!」と手をぶんぶん振り回した。
そして目を回している私たちをよそに、早々にエレベーターホールへと去っていく。
「……随分、周知が早いね」
やっとこさ出てきた言葉は、そんなもので。
「花梨のことだから、周りから埋めていった方が実感するんじゃないかと思って」
今朝伝えた、と。
今までのロースピードな恋は、どこへ行ったのか。
変わらない、と思い込んでいたのはどうやら自分だけのようで。
しかもそれを見透かされていて、周りは急速に変わってしまったようだ。