ぎゅっと抱き締めて、そっとキスをして


「……おばさんには、何て言ったの?」
「ん?そのうち花梨つれて来るよ、って」

それで全てを把握できるおばさんも強者だ。



「付き合って1日目のカレカノの言葉じゃ無いよね、普通」
「この場合それは当てはまらないよ。なんせ、10年以上は付き合いがあるしね」
「それとこれとは話が……」
「まぁ、同じだと思っといてよ」
「何て横暴な……」
「大丈夫。今までとたいして変わらないよ」

その言葉に、グッと詰まる。




変わらないの?
私たちの関係は進展したように見せて、周りにもそんなようにしてみせて、変わらないの?


「かわら、ないの……?」

まだ落ち着かないこの胸に巣くう不安は、すぐに顔を覗かせる。

目の前の大好きな人が困った顔をしている。
そして、私の手を取るとツカツカと歩きだす。
目指すのはエレベーターホールとは逆方向。
今しがた、おばさんが来た方向。






え、と思ったときには既に扉がバタンと音をたてたあとだった。



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