花と死(後編)
そんなはずはない。
だが、その光は暖かかった。
「サタン。」
タナトスは淡く微笑む。
「貴方を恨み続けるわ。……殺しに来るから覚悟しなさい。」
そう言い残して神と共に去った。
「言われずとも。」
サタンは地獄を見据える。
——深い、深い、海底。
薄氷に閉ざされた幻想とは違う景色にヴォルフラムは何処か他人事のように感じていた。
(あぁ、そうか。)
声も出ない。
だが、思考はぼんやりと働いていた。
(死んだのか。)
思っていたよりも死というのは苦しくないのだと思う。
暫くの間ぼんやりとすると、光が差し込んだ。
白磁の肌をした手が掬い上げる。
「哀れな器よ。汝には未だやるべきことがあるはずだ。」
そう言っていた気がした。
静寂と虚空が広がり、風が吹く。
辺りは広大な草原。
そして、暖かな風が頬を撫でた。
「何だ?」
自身の声に違和感を感じて手を見る。
小さな手。
子供の姿だと直ぐに解った。
「……どういうことだ?」
困惑した様子でいると、美しい女性の声がした。
「フラン。」
それには聞き覚えがある。
母だ。
駆け寄ると、母の姿と父、そして愛した女の姿があった。
「————っ!」
見回せば、今まで愛したものと友人や知人が居る。
(これが、死後の世界とかいうものか。)
そう思えば滑稽な気さえしてきた。
「フラン。」
どこからともなく、そのどれでもない声がする。
その方へ歩む。
すると、草原が枯れ、景色が遠ざかっていった。
「!!」
振り返ろうとすると、手が伸びて、それを阻止した。
「かえってこい。」
その声は——
「……?」
目が覚めると、地面に倒れていた。
起き上がろうにも力が入らない。
顔だけ動かすと、誰かの後ろ姿が目に入った。
(だれだ?)
ぼんやりとして、見ているとそれは立ち止まって蹲った。
「フラン……」
呟いたその声はクラウジアだとヴォルフラムは確信した。
声音が震え、啜り泣く音がした。
「かくれてないで、いいかげん……あぁ、いるわけがないか。」
何処か情緒不安定な口調で辺りを見回し、森の奥へ進む。
「クララー!」
そう呼ぶ声がして、小さな子供がクラウジアを引っ張る。
その子供がシエリアだと理解するのには少し間が要った。
「フランさんは居ないよ。だから、ね?おうちかえろ?」
「嫌だ!」
だが、その光は暖かかった。
「サタン。」
タナトスは淡く微笑む。
「貴方を恨み続けるわ。……殺しに来るから覚悟しなさい。」
そう言い残して神と共に去った。
「言われずとも。」
サタンは地獄を見据える。
——深い、深い、海底。
薄氷に閉ざされた幻想とは違う景色にヴォルフラムは何処か他人事のように感じていた。
(あぁ、そうか。)
声も出ない。
だが、思考はぼんやりと働いていた。
(死んだのか。)
思っていたよりも死というのは苦しくないのだと思う。
暫くの間ぼんやりとすると、光が差し込んだ。
白磁の肌をした手が掬い上げる。
「哀れな器よ。汝には未だやるべきことがあるはずだ。」
そう言っていた気がした。
静寂と虚空が広がり、風が吹く。
辺りは広大な草原。
そして、暖かな風が頬を撫でた。
「何だ?」
自身の声に違和感を感じて手を見る。
小さな手。
子供の姿だと直ぐに解った。
「……どういうことだ?」
困惑した様子でいると、美しい女性の声がした。
「フラン。」
それには聞き覚えがある。
母だ。
駆け寄ると、母の姿と父、そして愛した女の姿があった。
「————っ!」
見回せば、今まで愛したものと友人や知人が居る。
(これが、死後の世界とかいうものか。)
そう思えば滑稽な気さえしてきた。
「フラン。」
どこからともなく、そのどれでもない声がする。
その方へ歩む。
すると、草原が枯れ、景色が遠ざかっていった。
「!!」
振り返ろうとすると、手が伸びて、それを阻止した。
「かえってこい。」
その声は——
「……?」
目が覚めると、地面に倒れていた。
起き上がろうにも力が入らない。
顔だけ動かすと、誰かの後ろ姿が目に入った。
(だれだ?)
ぼんやりとして、見ているとそれは立ち止まって蹲った。
「フラン……」
呟いたその声はクラウジアだとヴォルフラムは確信した。
声音が震え、啜り泣く音がした。
「かくれてないで、いいかげん……あぁ、いるわけがないか。」
何処か情緒不安定な口調で辺りを見回し、森の奥へ進む。
「クララー!」
そう呼ぶ声がして、小さな子供がクラウジアを引っ張る。
その子供がシエリアだと理解するのには少し間が要った。
「フランさんは居ないよ。だから、ね?おうちかえろ?」
「嫌だ!」