花と死(後編)

追想

数日後
ヴォルフラムの屋敷へ戻ることになったクラウジアとヴォルフラムは屋敷へ通じる森を歩いていた。
「ヴォルフラム。」
そう背後から声をかけられた。
その声は女に転生してしまった時のヴォルフラムと同じだ。
「!!」
驚いたクラウジアが振り向く。
目の前には同じ声の主が居る。
「誰だ。」
ヴォルフラムが問う。
「誰だ?……貴様は己の罪を忘れたのか。」
口調も声も姿も同じ顔。
手違いで転生した時を彷彿させてヴォルフラムは眉を寄せる。
「“フランシア”」
「——!!」
ヴォルフラムは目を見開く。
「その名を何故、貴様が知っている!!」
「何故かと問われれば、答えはひとつ。……私こそがフランシアだ。今は、ライラと名乗っている。」
「馬鹿な。そいつは」
そこで言葉が途切れる。
「そうだ。」
その言葉の続きを肯定する。
「どういうことだ。罪?……サタン、とかいう存在に関わりがあるのか?」
「ああ。」
クラウジアにヴォルフラムは頷いた。
「フランシア。俺の双子の姉だ。彼女は胎内で死んだ。」
「そうだ。それこそが罰の始まりだ。器であるヴォルフラムはサタンが犯した罪が為に永遠に愛したものを奪われ続ける。」
「つまり、生まれる前から罰を与えられていたのか。」
ヴォルフラムに続けてライラが言うとクラウジアが驚く。
「ライラという名前で天界にて存在している。魂を現世へと導く役目だ。」
ライラは真っ直ぐに見つめる。
「ずっと会いたかった。貴様に……唯一無二の弟に。」
「唯一、か。」
ヴォルフラムは遠い昔を思い返すようにライラを見た。
「それは違う。」
「?」
ライラはきょとんとしている。
「俺達には兄弟が居る。とはいえ、会ったことはないが。」
その言葉に二人共が“どうしてだ?”という表情をした。
「生まれつき感情の抑制が出来ずに、周囲に危害を加えた。その為、離れで暮らしていた。」
「サタン。憤怒の罪人の性質上、か。」
「今考えればそうだな。」
ヴォルフラムに納得してライラは言う。
「会ってみたいな。」
「既にこの世に転生しているだろう。姿形を変え、幸福になっているに違いない。」
「……幸福、か。」
ライラは二人を見た。
「幸福か?」
その質問にクラウジアが言葉に困る。
愛する者を亡くし、その記憶を持っても愛することをやめることは出来ない。
悲しき輪廻にどうして幸せを見いだせようか。
< 18 / 20 >

この作品をシェア

pagetop