花と死(後編)
幸せも泡沫に過ぎないと知っていて尚、幸せと言えるだろうか。
「ふ、」
ヴォルフラムが少し声を出して笑う。
そんな表情するとは思っていなかったクラウジアが驚くと、ヴォルフラムがクラウジアを抱き寄せた。
「不幸にみえるか?」
そう言ってみせるヴォルフラムは“ははっ”と笑った。
「いいや。」
ライラもまた同じく笑う。
(何だ。ちゃんと、幸せじゃないか。)
そう安心した。
「それで、俺に何の用だ。」
クラウジアから手を離して言う。
「神の慈悲により貴様は此処へ転生した。」
そう言ってヴォルフラムに触れる。
「だが、その肉体はとうの昔に朽ちている筈のもの。いくら神でも、罰を全て無かったことには出来ない。今在るのは、地獄界にあった魂。そして、サタンと同一になった以上は長く現世には居られない。その女よりも確実に早く死ぬ。その後、地獄界の番人として永久に魂は拘束される。」
「そんなこと認めない!フランは私が守る!!」
クラウジアはライラに詰め寄る。
「これは変えられぬ。そして、私はその事実を伝えに来た。今はサタンもまた地獄の番人として存在している。その肉体がある以上は……ややこしいことに、同一となったはずの器と罪人は一時的にその契約が無効となっている。」
「つまり、死後は転生せずに魂ごとサタンの一部となり消失する、か。」
「そうだ。」
ヴォルフラムは至って冷静だ。
「構わない。」
「フラン!」
「良い。」
強くクラウジアを威圧した。
「その時は地獄で貴様を待つ。」
真っ直ぐ見据えていった。
「来てくれるか?」
「——っ、……当たり前だ。」
クラウジアはヴォルフラムに抱きつく。
「どこまでも仲が良いことで羨ましい限りだ。」
ライラは呆れたように言う。
「では。クラウジア。」
クラウジアを呼ぶとライラは優しい表情をした。
「天界に来た時は私が地獄界へ案内してやるとしようか。」
その言葉に目を丸くした。
「そうだな。」
クラウジアは笑う。
「なんだ、いい奴じゃないか。」
「褒めても何も出ないぞ。」
ライラは背を向けて照れる。
「役目は果たした。」
そう言って去った。
「地獄界がどんなところか楽しみだ。」
「間違っても後を追ったりするなよ?」
「どうだかな。」
「クララ!」
ヴォルフラムはクラウジアを睨む。
「……ふふ、心配ならば生きることだな。」
< 19 / 20 >

この作品をシェア

pagetop