天翔ける君
鬼は恵都の質問には答えなかった。
落ちてきた妖たちは鬼の後ろに集まり、動く気配はない。
この鬼が集団を率いているのだろう。
鬼は無言のまま恵都に歩み寄る。
恵都は無意識に、尻をついたまま、後ずさった。
しかし背はすぐに障子にぶつかる。
泥のついたままの草鞋で、鬼は縁側に足をかけた。
「――お前、人間だな?」
鬼は無遠慮に顔を近づけ、恐怖で口のきけない恵都をのぞき込む。
声までが千鬼と似ている。
「なんだ、口がきけんのか」
鬼は恵都の髪をつかんだ。
引っ張られて、恵都は無理矢理に顔を上げさせられる。
「痛い!」
恵都が叫んでも、鬼はつかんだ髪を離さない。
痛みと混乱で恵都の目には涙が浮かんだ。
「話せるのなら最初からそうしろ。人間の分際で手間取らせるな」