天翔ける君
鬼は底冷えのする瞳で恵都を睨みつけ、乱暴に手を離した。
その反動で背を強かに障子に打ちつけ、恵都は苦悶の声を漏らした。
千鬼には確かに似ている。
瓜二つと言っても過言ではない。
しかし表情や行動でここまで印象が変わるものかと驚いた。
「千鬼か山吹の情婦か?――いや、千鬼だな。お前には千鬼の匂いがこびりついている」
鬼は嫌そうに鼻に皺を寄せる。
恵都は情婦という言葉にかっとした。
千鬼も山吹も、決して恵都をそんな風な目で見たり扱ったりしなかった。
ふたりの優しさや、なにもかもを貶されたような気分になる。
頭が沸騰しそうなほどの怒りが込み上げてきた。
「そんなんじゃない!」
恵都の意に反した震えた声で否定して、少しでも鬼から遠ざかろうと横にずれた。
走って逃げたいのに、力が抜けて立ち上がれない。
「手間取らせるなと言っただろう。逃げるな」
再び髪を鷲づかみにされて、恵都は身を強張らせた。