天翔ける君
恵都は血の気が引くのを感じた。
反射的に逃げようと試みるが、鬼は髪をつかんだまま離してくれない。
「手間取らせるなと言っている」
鬼はため息を吐き、
「生きたまま連れられるか、骸となってから連れられるか、選択権があるのならば答えは決まっているだろう?」
ああそれに、と鬼が薄い唇の両端をつり上げる。
酷薄な笑みに恵都の背筋が凍った。
「山吹の命もつけてやろう。お前がおとなしく来るというのなら、山吹は殺さずに引き上げてやってもよい」
「山吹さんになにかしたの?」
山吹は町の妖に呼ばれて出ていったはずだ。
それもこの鬼がなにかしたということだろうか。
「南天(なんてん)、見せてやれ」
背中に黒い翼を生やした妖が音もなく前へ出た。
山伏の衣装を身に纏い、くちばしを模した面頬をつけている。
恵都でも聞いたことのある有名な妖、烏天狗だ。