天翔ける君
南天と呼ばれた烏天狗は懐から鏡を取り出した。
終始無言の南天がそれに手をかざすと、ぼんやりと光を帯びた。
鬼は鏡を受け取り、それを恵都に見せる。
鏡は山吹を映していた。
不思議なことに、昼間のように鮮明に見える。
「山吹さん!」
恵都は思わず名前を呼んだ。
鏡の中の山吹は幼い子供を背に庇い、多数の妖と対峙している。
山吹の口からは血がこぼれている。
着物は泥で汚れ、山吹自身のものか返り血なのかは分からないが、所々赤い染みができている。
音声はないが、肩で息をしている様子から、疲弊しているのが分かった。
一歩、また一歩と後退して、山吹と幼子にはもう後がない。
ふたりの背後には雨のせいで流れの速くなった川が、水かさを増して待ち構えていた。
恵都はもう見ていられないのに、髪を引っ張られて鏡から目をそらせなかった。