天翔ける君
「山吹さん!」
声は届かないだろうけれど、それでも恵都は悲鳴のように叫んだ。
このままでは山吹の命が危ない。
あの子供を見捨てれば、山吹の命だけは助かるかもしれない。
山吹ひとりならば、逃げるなり打ち負かすなりできるかもしれない。
けれど、山吹は決してそれをしないだろう。
追いつめられてなお、山吹は子供を庇い続けている。
「さあ、どうする?」
鬼が残酷な笑みを浮かべた。
凶悪な牙がその口からのぞいている。
「本当に山吹さんは無事に帰してくれるの?それに、あの子供も。――それと、千鬼は?」
恵都は鬼を睨みつけた。
髪が引っ張られて、頭がじんじんと痛む。
この鬼の笑顔が、存在が、怖い。
いったいどこに連れていかれるのか、そこでどんな扱いを受けるのか、考えると恐怖しかない。
けれどそれ以上に怒りが大きかった。
この鬼が憎くて憎くてたまらない。