天翔ける君
「――千鬼、千鬼」
とうとうしゃくり上げながら、恵都は泣いた。
千鬼は無事だろうか。
柊と嵐はどうなったのだろうか。
恵都には無事を祈ることしかできない。
そもそも、夜鬼が約束を守るような人物には思えない。
そうなると山吹が無事なのかも疑わしいのだ。
恵都は脱衣所の外で待ち構えていた南天に連れられて、夜鬼の私室に通された。
千鬼の部屋と違い、そこは飾り立てられた部屋だった。
高そうな掛け軸や壺、花は恵都が摘んで活けたような質素なものではなく、華道の達人が活けたように見栄えがいい。
飾り障子も見事で、雅という言葉が似つかわしい部屋だ。
そういえば、と思い返して、恵都は夜鬼に目をやった。
夜鬼の着物も、一言で言ってしまえば派手だ。
鮮やかな青の生地に金糸の刺繍が美しく、柄自体も鳳凰と目立つ。
千鬼や山吹を見ていて、男性はあまり柄のある着物を着ないのかと思っていたが、そうでもないのだろうか。