天翔ける君
「帰すつもりなどない」
こともなげに言いきった夜鬼に、恵都は下唇を噛んだ。
「お前はオレのものになるのだ。――あれよりも、ずっといい男だろう?」
艶のある真っ黒な髪をかき上げてみせる夜鬼は、確かに美しい見目をしている。
けれどその笑顔のなんと醜悪なことだろう。
「なに?なにが目的なの?」
「だから、お前をオレの女にしてやると言っているんだ」
夜鬼の笑顔から真意は読めそうにない。
恵都はこの鬼はいったいなにを企んでいるのだろうと眉をひそめた。
――なにか目的があるはずだ。
恵都はあてがわれた部屋で思考を整理しようと努めた。
部屋には小さな机にのった筆や硯に紙、そして布団が一組置かれている。
それらは真新しく、いかにも急きょこの部屋に運ばれたといった感じだった。
畳は年季が入っていそうだが清潔で、とても連れ去られた身の待遇とは思えない。
ただし、この部屋は座敷牢になっていた。