天翔ける君




大きな部屋の一角を木の格子で区切り、座敷牢にしてあるのだ。
木自体は古いのに、揺すってもびくともしない。
出入口には、これまた頑丈そうな錠前がはめられている。

簡単に逃げ出せるとは思っていないが、更にその気が削がれる。
恵都はとりあえずため息を吐いた。


夜鬼の狙いを考えてみても、恵都にはさっぱり思い当たることはない。
夜鬼は「オレの女にしてやる」と戯言を言っていたが、それに特別な気持ちがないのは確実だ。

――だったら、なぜ?
恵都はひとり首を傾げる。

恵都はこの妖の世界で、取り立ててなにかできるわけではない。
卑屈になっているのではなく、本当にそうなのだ。
食糧としてくらいしか、人間の恵都には特別な意味がない。

そのただの人間を「オレの女にしてやる」と言うのだから、夜鬼にはなにか狙いがあるはずだ。
恵都自身が知らない利用価値を夜鬼は勝手に見出している。

夜鬼はわざわざ千鬼をおびき出して、山吹を罠にはめて殺そうとした狡猾な妖だ。
酔狂で言っているのではないだろう。



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