天翔ける君





そう思うと、不思議なことに、それが当たり前のことのように感じる。
なぜ今の今まで気づかずにいられたのか、そっちの方がおかしいとさえ思える。

千鬼は必ず助けにきてくれる。
これは恵都のただの願望ではなく、千鬼がそういう男だからだ。
そして、恵都がそれを信じているからだ。

だからといってそれに甘んじ、ただ捕まっているわけにはいかない。
恵都は然るべき時に備え、すぐに逃げられるよう、千鬼の足手まといにならないようにしておかなければならないのだ。

なにかが吹っ切れたような気がした恵都の顔には、自然と微笑みが浮かんでいた。



夜鬼は上機嫌だった。
また一緒に食事をとり、夜鬼はひとり酒を煽っている。

「どうだ、オレの女になる気になっただろう?」

「誘拐して座敷牢に閉じ込めるような奴に、そんな気になるわけないでしょ」

恵都は夜鬼に対して恐怖を感じなくなっていた。

それはやはり夜鬼の顔のせいが大きい。
面頬を取り、更には瞳が黒いせいで、夜鬼は本当によく千鬼に似ている。
千鬼の髪が黒ければ、きっとこんな感じなんだろうな、と恵都はぼんやり思った。



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